<Crossbeat July 1989 vol.2 No.7>

Column and News UPFRONT
永沼佐知子的ロンドン音楽生活
<永沼佐知子、強力プッシュの(良)バンド>

出てくるバンド、出てくるバンドどれもこれもどんぐりの背比べでうんざりしてしまう今日この頃。
ここ数年のイギリスなんて新人バンドもシーンも、ごく一部を除いてみんなでっち上げだ!!
なんて過激なことも言いたくなる。特に現地にいるとその傾向の著しさが痛々しいほどなのである。
話題に昇っているからといって、それがイコール良いバンドとは限らないので、読者の皆さんも、
アーティストの真価は自分の耳で聴き分けてください。あまりくだらない音楽を聴かされていると、
耳自体が腐ってしまいますから。気をつけて。


などと思わず豪語してしまったが、そんな中で、シーンの動きや流行に左右されることなく、地道
ながらも、自己の表現世界をしっかりともって活動を続けているグループのひとつとして、今回は
日本でも根強いファンをもつアンド・オールソー・ザ・トゥリーズの近況を伝えておきたいと思う。



'79年に結成され、'83年にレコード・デビューして以来、正規のスタジオ録音盤としては、昨年の
「The Millpond Years」を含む3枚の秀逸なアルバムをリリースしている彼らであるが、約1年ぶり
の新作となった今回のシングル(通算7枚目)では、'60〜'70年代にかけて活躍したイギリスのシ
ンガー・ソングライター、キャット・スティーヴンス(現在はイスラム教徒で、先頃の『悪魔の詩』焚
書事件において、著書サルマン・ラシュディ氏に反旗を翻した話題が記憶に新しい)の70年代始め
のヒット曲"Lady D'Arbanville"をカヴァーしている。彼らとしては初のカヴァー作品となったわけだ
が、この曲は作詞とヴォーカルを担当するサイモン・ヒュー・ジョーンズの脳裏に長年焼きついて
いたものらしく、実際、その悲劇的かつ猟奇的なロマンスを体現する歌詩の内容に、彼自身が書く
詩と多くの共通点がみられたことや、D'ARBANVILLEという女性像が、彼の愛読書であるトマス
・ハーディーの『TESS OF THE D'URBERVILLES(テス)』を彷彿させたことなどから、今回の
カヴァーに至ったそうだ。

しかし、カヴァーとはいっても、原曲とは音楽性を全く異にしており、明朗なリズム感覚は廃絶され、
ヴォーカルとギターを前面に押し出したシンプルな構成で歌詩本来のもつ悲劇性を忠実に音化する
と共に、AATTならではの審美的な表現世界へと昇華させている。
また、同曲については、彼ら初のヴィデオ・クリップも製作されたとの事である。
なお、彼らは5月2日にロンドンにおいて約1年ぶりのライヴを行っており、現在は9月初頭のリリース
に向けて、ニュー・アルバムのレコーディングに入っているそうだ。






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