<Fool's Mate No.100 Jan. 1990>

アンド・オルソー・ザ・トゥリーズ・インタビュー

80年代最後の叙情派のワイルドな理論


インタビュー:根本世子
文・構成:羽積秀明

珍しいことに、彼らをつかまえたのはロンドンだった。都会を遠く離れた小さな村に引きこもっていた
彼らが、最近は活発に活動を拡げつつある。「純粋に音楽的理由から、絶対あの村を離れるつもりは
ないと思っていた......、どうせ移るなら、180度変わった都会の真ん中がいいな。」と、フロントマンの
サイモン・ハウは語り、弟のジャスティンは「言葉さえ通じるならパリでもローマでもいい」と言い、そし
てスティーヴン・バロウズは「後は決心の問題だ」と続ける。
ヨーロッパ的な美しい田園美を背景に、それを極限的なまでの感情移入で描き切った彼らにとって
様々な意味で今は決心の時期であると言えるのかも知れない。
新作アルバムをリリースし、今後の大きな飛躍が期待できる80年代最後の叙情派AATTが、そのル
ーツから音楽までを語った最新インタビュー。


-新作「Farewell To The Shade」にテーマはあるんですか?
Simon Huw Jones(以下、SJ):いや、前の2枚(『Virus Meadow』『The Millpond Years』)と違って、全体
を通じてのコンセプトは特にないけど、それぞれの曲は歌詞の点などで共通したものを持っているよ
ね。1つのアイディアから、いくつもの曲が生まれたりね。


-曲作りにはどれくらいかかったんですか?
SJ:1年ぐらいかな。僕らにとって、曲作りは決して楽じゃない作業で...特に歌詞やボーカル・ラインに
すごく苦労するから...。


-メロディと歌詞はどっちが先なの?
Steven Burrows(以下、SB):大抵は曲が先で、その雰囲気からサイモンが詞を書くというパターンが
多いね。

Justin Jones(以下、JJ):でもまあ、色々だね。曲作りの方法は限りないさ。

-詞や曲を作る時に、大切にしているイメージとかありますか?

SJ:そう...おそらくあると思う...でも言葉で説明するのは難しいな...。例えば、目を閉じて、その向こう
の、ここではないどこかに飛んでいって...そこで僕が見つけたもの、それを何とかつかみたい、表現
したい...という感じだろうか。そこで「見た」ものが果たして何だったのかを明確に説明するのは難し
いけど、でもそこで受けた衝撃やセンセーションは確かなものなんだ。
今回の「The Horse Fair」という曲もそうだけど、その時の何かつかめないものの正体を何とか捉えた
い...そんな感じ。別に高尚ぶっているんじゃなく、これが僕のやり方なんだから、仕方がない。
自分にスピリチュアルな面が多分にあるのは認めるよ。歌詞作りに関しては...まあ、ほとんど「夢分
析」のような作業だな。でもこれが、もし鼻歌混じりで簡単に書けたとしたら、それこそ間違いのよう
な気がしちゃうんじゃないかと思うんだよね。やっぱり、苦しんでこそ、自分の心の奥深いところから
言葉が生まれてくると思うし。

SB:僕らの信念みたいなもんさ。お手軽じゃなく、わざと苦労する道を選ぶのは(笑)。


‐裏ジャケの蛾の写真にも意味があるの?
JJ:直接的でないにしろ、象徴的な意味は込められているよ。でもそれって、冗談言った後で、それ
がどうおかしいのか説明するみたいなものだから、そのへんの解釈はお任せさ。

‐今回のアルバムは、内容的に以前のものよりダイナミックで、ドラマティックな印象を受けた
んですけど。
SJ:ものを意識したり狙ったりして作ったことはないから、それはあくまでも結果としてそうなったと言
うだけだね。だから次がどんな作品になるのかも、作り始めてみなければさっぱりわからない。もしか
したら、ものすごく暗いインストばかりのLPになるかも知れないし...多分そうなるだろうけど(笑)。あえ
て違った見方をするならば、あれは自分の家を離れて、ヨーロッパや違った場所に旅した後に作った
LPだから、その分視野が広がっているとか、例えて言えば、空の上から自分達の住む村をじっくり眺
めることが出来たみたいな、そんな感じかな。「Prince Rupert」なんか、家にじっとこもっていたら、きっ
と生まれなかった曲じゃないかな。まあ、強いて分析すればね。そんな事をいつも寝る前にベッドの
中で考えてるから、不眠症で困っちゃうんだよなあ(笑)。


-あのアルバムには、どこかサントラのようなイメージがありますよね。
SJ:いいこと言うね。(2人に向かって)そうだよ、サントラはやるべきだよ。そうすりゃ僕がいなくても済
むし(笑)...もっとも僕が主演の映画なら話は別だけど(笑)


JJ:サイモン主演のロック・オペラなんか、どうだい(笑)。

SJ:いいねえ。台詞もいらないし(笑)

‐例えば、あなた達の心の中にはひとつの映像みたいなものがあって、その架空の映画のた
めのサントラという感じがするんですけど。

JJ:そうかも知れない。僕らがあまりビデオを作らない理由もそこなんだ。頭の中には常にイメージの
映像があるから、それを実際に完璧に再現するのは難しいだろうと思うから...。

SJ:それに、もう既に心の中にあるイメージをわざわざフィルムにするより、レコードを聴いてくれた人
が、それぞれの映像を心の中に描いてくれれば、それが一番なんだ。百万人が聴いてくれれば−い
や、僕らのレコードがそんなに売れている訳ないな(笑)−250人くらいかな(笑)。つまり、250人が聴い
てくれれば、そこには250のイメージが生まれて欲しいと思うんだ。

SB:バンド内でも最近、そのことをよく話すんだけど、ビデオを作らなきゃならないみたいな最近の風
潮にも抵抗があるし、でももし何か作るとしても、プロモっていう感じじゃなく、音楽と映像を使った、何
か新しい表現としてのフィルムを作れたらいいなと思うんだ。

JJ:確かに映像制作って面白いよね。今度のシングルは「Misfortunes」になると思うけど、それで何か
作ってみたいな。普通とはちょっと違ったものをね。

‐好きな映画とか監督は。
SJ:「カラバッジオ」とか好きだね。

JJ:好きな監督は一杯いるけど、一人あげるならピーター・グリーナウェイかな。最新作も良かったけ
ど、彼のベストはやはり「建築家の腹」だよな。


SB:僕は監督というより、作品で好きになる方だけど、最近ではクローネンバーグの「戦慄の絆」が
最高だったな。


‐話は変わりますが、キーボード担当で、今回のLPで共同プロデュースもしている、Mark 
Tibenhamという人は?

SB:以前もキーボードをやってもらった事があるけど、彼は僕らの数少ない理解者、バンドの"アソシ
エイト"っていう感じかな。でも彼には別にやりたいことがあって、正式メンバーになる気はないみたい。

SJ:今回のツアーにも参加してくれることになっているから、今から楽しみなんだ。これまでずっと4人
だけでライヴをやってきたから、彼の加わったステージがどんな風になるか興味あるし、アルバムも
キーボード重視だったから、その点もね。


‐ライヴはレコードよりもかなりワイルドですよね。
SJ:そうだね。スタジオでは、とにかく最良の「音」を作ることに集中しているけど、ライヴはエモーショ
ナルな経験というか、殆ど曲の一部になるということが大切で、ただステージにつっ立って歌うという
ことは不可能なんだ。感情や興奮が物凄く高まるから。必然的にレコードよりも力強く、緊張感ある
パワフルなものになるんだろうね。

‐最近は以前よりも頻繁にライヴをやるようになったのは何故ですか?
SB:前よりも楽しんでライヴが出来るようになったからかな、どうしてかわからないけど。本当は今以
上に沢山やりたいと思ってすらいるんだ。ツアーで色んな場所に行くというのも楽しみになっているの
かなあ。

SJ:昔は客も少なかったしね。演奏しているうちに、みんな帰ってしまったこともあった(笑)。
悲しかったけど、今はファンも段々増えてきてくれたし、実際、僕らの音楽を聴いて好いてくれる人が
いるというのはすごく励みにもなるよね。ライヴの雰囲気もすごくいいし、前までだったら僕らの音楽っ
て、自分達のみにとって大切だったのに、今は他にもそう感じてくれてる人がいるんだって思うと自
信にもなるよね。最近は大きいホールでやることもあるけど、個人的には、観客と密着した小さい会
場が好きなんだ。観客と離れすぎると集中して歌うのが難しくてね。でもそうした変化は必要だし、バ
ンドにとってプラスになっていると思うよ。

-レコードから受ける印象だと、どちらかというと、シリアスで内向的で知的という感じがするん
ですが、もしかして日常生活もそんな感じなんでしょうか....?
SJ:ハハハ、決してそんなことないな。ちゃんとした学歴もないし....今から思えば、もっとちゃんとやっ
ていたらなあ、と後悔もしているさ...。20才までロクに本を読んだこともなかったんだから。勧められて
本を読んだり、人と話をしたりして、少しづつ曲が書けるようになっただけで.....でも内向的というのは
多少当たっているかなあ。元々僕らの村では、人が集まってワーっと盛り上がるパーティなんかもな
いしね。

JJ:そのせいか、人が沢山いる所に行くと物怖じしちゃうし、そういう時には内的なのかなって思うこと
もあるけど...。

SJ:そんな事言ったって、バンドの中で一番お喋りなのはお前だぞ(笑)。

−日本にはどういう印象を持っていますか?
SJ:ファンの一人が東京の風景のスライドをよく送ってくれるんで、東京の様子は何となく解ってきた
けど、写真で見る限り、ずいぶんアメリカ的な感じだね。特に街の中心では英語がたくさん目につい
て、まあ東京以外の様子はさっぱり解らないが。

JJ:東京っていうと、『ブレード・ランナー』みたいな印象が強いね。でも、きっと田舎は綺麗でミステリ
アスな感じなんだろうな。

SJ:この前テレビですごく良い日本の映画をやってたよ。中世の山賊みたいなのが出てくる、白黒の
映画。

−ああ、黒澤明の「羅生門」でしょ。
SJ:へえ、そういうタイトルなんだ。あれ見て日本てあんな感じなのかなとか...もちろん山賊なんか今
はいないんだろうけど(笑)。

-では、最近の音楽シーン、例えばクラブ・シーンなんかについてはどう思っていますか?
SB:アシッドとかは、昔から大嫌いだ。

SJ:僕は結構好きだったな。どんなムーブメントにも良い面と悪い面があるんだから。

‐じゃあ、もしあなたの村でアシッド・パーティがあったら行きますか?
SJ:まあ、そんなもん絶対あるわけないけど(笑)、あったら行くだろうな、きっと。

SB:僕は嫌だ。

JJ:どうして?ドラッグ&ダンシングなんてキモチ良さそうなのに(笑)。

SB:それなら、ジェファーソン・エアプレインでトリップする方がまだましだ(笑)。

JJ:その辺の動きは、何か目新しいものを求めて必死になっているメディアによって作られたという感
じがするんだよね。メディア側の必死さが先に目についちゃう...音そのものも案外期待よりつまらな
かったりするし。

SB:あんなもん、一回聴けば充分だよ。

SJ:でもイエローなんか、結構いいだろ。

SB:イエローはやっぱりアシッドやハウスとは別だよ。クラブでかかったりはするけど、10年も前から
ああいう音をああいう音をやってたんだぜ。


SJ:僕は、何か新しいものに飢えていたのはメディアだけじゃなく、若者一般も同じだったと思う。丁度
パンクが出てきたのと同じようにね。あの当時パンクはすごく新しくてかつ危険なものを孕んだ音楽
だったよね。アシッドもその2つを兼ね備えた音だと思うよ。メディアが作りあげたということでは、パン
クだって同じだった訳だし、人々がそういう音を求めて、そこから生まれたものなんだよ、両方ともね
。それでこれだけ多くの人がアシッド・ハウスを聴いて、ダンスして楽しい気分になれるのなら、その
意味では良いものなんだと思うよ。個人が好むと好まざるに関わらずにね。

‐パンクといえば、あなた方のスタートもパンクがきっかけだったという話は本当ですか?
S:うん、本当だよ。

‐その時の衝動は、今どんな形であなた達の中に残っているんでしょう?

SJ:それは殆どノスタルジアでしかないね。過去を振り返って感じる懐かしさ、だね。

SB:出発点はパンクだったけど、そこからだんだん成長したということさ。例えばワイヤーなんかが、
ある時点を境に全く新しいバンドとしてスタートしたように、僕らも年月の中で変化し、成長してきたと
思うよ。僕らの中でのパンクは終わりを告げて、そこから新しいものが始まったということかな。

‐では、現在のジョン・ライドンやジョー・ストラマーを見て思うことは?

SB:うーん、ジョン・ライドンは今でも人から「必要」とされている存在じゃないかな。ある種の怖さや危
険を象徴していると思うよ。でも同時に彼はかつて自分達が批判していたロック・モンスター的なもの
に自らがなってしまったようなところもあるよね。J・ストラマーに関しては、僕は前から胡散臭く思って
いたんだ。だって元々ロックン・ロールやってたくせに、クラッシュ作ったら「ロックン・ロールは死んだ
」とか歌って、そうかと思えば、今は「ロックン・ロールは永遠だ」だろ。あんな偽善者珍しいぜ。こな
いだもTVに出てたから、すぐ消したんだ(笑)。オリジナルなパンクから出発して、今でも当時の誠実さ
を失わずに、上質のレコードを作っているのはワイヤーぐらいだろうな。

SJ:ストラングラーズもいるよ。

SB:まあね。あとはシャム69か(爆笑)。ビリー・アイドルなんて人はどこに行ったんだろう。ダムドでさ
え、もはや何というか、バンドというより団体だな(笑)。きっと20年後でもどっかのキャンプ村で演奏し
てるぜ(笑)。

‐あなた達と同時代のバンドで、他に興味のあるバンドは?
SJ:昔からずっと好きなのは、ニック・ケイヴ。それにマーク・アーモンドだな。最近ではスワンズとか。
後はデヴィッド・シルヴィアン、彼の書く詞はどうも今1つだけど(笑)、音楽は凄いからね。

SB:そのくせ、彼のインスト・アルバムって全然良くないんだよな(笑)。不思議だよね。でも、どっちな
んだろう、今の音楽は昔と比べて、全体的に良くなっているのか悪くなっているのか...。多分その明
確な答は永遠に出てこないんだろうな。ただ、何か新しいことをやっているバンドが、今はどうもいな
くなっているんじゃないかと思う。60年代を焼き直しているストーン・ローゼスとか、マスコミには騒が
れているけど、ハッピー・マンデーズなんかも別に新しくは思えないし、アシッドにしても、イメージとし
て新しい名前はついたけど、結局は10年前のクラフトワークと同じことやってる感じで、僕にはどうも
その辺が理解できないんだよな。

JJ:新しい音を求めるというのは、僕はもう諦めたね(笑)。自分達の音楽だけで充分。

SJ:但し、僕らは新しいどころか、物凄く古いけど(笑)。本当のところ、19世紀の生き残りみたいなもん
だ(笑)。

‐では、最後に今後のバンドの音楽的な方向性とか、抱負みたいなものを。

JJ:それは僕らにも解らないな...。1年後に何をしているかって訊かれても、答えようがないのと同じだ
。全く見当もつかない。

SB:希望ということで言えば、アメリカとか日本とか東欧とかロシアとか、色んな所をツアーしたいな、
実現するかどうかは解らないにしろ。

SJ:僕は、もしいつかアイディアが枯れて、もう潮時だって言う時が来たら、その時にさっさとおしまい
にすることができたらいいなと思う。その時が来ているのに、それに気づかず、いつの間にか退屈な
ロックン・ローラーに成り下がってしまうのだけは嫌だね。



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