<Fool's Mate No.84 Sept. 1988>
アンド・オルソー・ザ・トゥリーズ・インタビュー
Green was the sea......and also the trees.......
深き緑は海の色...そしてまた木々の色...
田園に棲む精霊と無垢なる童に捧ぐ音
インタビュー:宮下りえ
文・構成:杉下知真里
アンド・オルソー・ザ・トゥリーズは、サイモン・ヒュー・ジョーンズのリアリティであり、彼はこの雄大な
音楽を更に包み込んでしまう大自然と、それを育む悠久の時の流れに密着して生きている。
それは実際、目の前を走り去る馬の一群であったり、夕闇に点在する美しい廃屋であったり、遠い
昔地中深くに埋められたという銀の鐘だったりする。彼はこれらを種として蒔き、慎重に木々(トゥリ
ーズ)を育てた。
彼の詩が音楽を通じてイメージの中で焦点を結ぶ時、木々は深い深い森となって現れて来る。
そしていつも、森の中には、早くも遅くもない本当の時間が流れている。
Green was the sea, and also the trees-これがトゥリーズの本名である。
インタビューは今年の5月、彼らの住むウースターの村から暫く車を走らせた地点、心を圧倒する大
自然の中の、小さな共同墓地の近くで行われた。
-音楽を始めた契機は何だったんですか?
Simon(以下、S):僕達はみんな同じ村で育ち、学校も一緒だった。そこは本当に何もない田舎町だ
ったから、モーターバイクに乗って走り回ったりする以外、他にやることもなかったんだ。
それでいつも音楽ばかり聴いていたよ。よく覚えていないけど、とにかくパンクが生まれた時、それ
は誰もがバンドを組めるってことを証明したんだ。だから、音楽を始めるのに、ただ演りたいと思っ
た以外、特別な理由はなかった。81年に友達とグループを結成して、その頃は小規模なギグをか
なり沢山やった。そして83年になって、Reflex Recordと契約した。このレーベルは、僕達の町から近
いマルバーンという小さな町にあったんだ。その年にスティーヴンがニック(Dr)の弟に代わってベー
スに加わった他は、何も大きな変化はないよ。
‐最新アルバム『The Millpond Years』には、キーボードが入ってますね。
S:ああ、あれは丁度新しい音が欲しいな、って思ってた所に、知人の一人がキーボードと幾つかの
アイディアを持って来てくれたんだ。今までよりも、聴き易くなったんじゃないかな。僕は気に入って
いるよ。
‐あなた達の音楽の理想はどういったことなのですか?
S:僕達は感情を喚起する音楽を表現して行きたいんだ。音楽を聞くことで、人の心に絵を書いてい
くことが理想だな。世の中には、当然心を動かされるのを嫌う人がいて、そういう人達は僕達の音
楽に興味を持たないだろうな。だけど僕達は、自分達の歌には、とても真剣だよ。イギリスでは珍し
いでしょ。メディアの求めるものと言えば、ダンスかディスコかロックン・ロールの楽しい奴だからね。
-そういった理想は、あなたの何処から来るものだと思います?
S:多分ロンドンから離れた、こういう環境で育ったでしょ。だからどうにかして、遠くまで届きたいんだ
。言葉か雰囲気を大切にして、人々の想像力をかきたてる事ができると思うよ。
‐自分のことを詩人だと考えたことは?
S:それは一度もないよ。できることならそうありたいけど、僕のはそんなに良くないよ。ただ周りにい
る人達が、僕の書いたものをとてもポエティックだと言い出して、それで僕も気を遣うようになり、より
真剣に取り組むようになった、という事。学生時代とか全然、勉強しなかったし、良い教育を受けたと
は言えない。僕の人生の転機と言えば、19才の時に、生まれて初めて1冊の本を読んだ時なんだ。
それはAldous Huxleyの「Time Must Have A Stop」で、それ以来、読書には夢中になった。
‐特に好きな本はありますか?
S:様々だけど、Thomas Hardyの本は大好き。他は全く正反対のビート・ノベルもよく読むよ。
‐そういった本から、どういった影響を受けていますか?
S:僕達の住んでいる所って、本当に静かで、瞑想したり、考え事をする時間があり余るほどあるんだ
よね。ふと気がつくと、逆戻りした時間の中にどんどん入って行ってしまう。過去の魂や精神を拾いな
がら、心を導いていくもう1つの別の時間、本の中にはそれらを感じることができるよ。
‐そう言えば、貴方の歌詞には、よく色々な人物が出て来ますよね。
S:そう。歌に登場する名前は、全て僕の空想から生まれた架空の人物だよ。僕の頭の中に彼らは
住んでいて、僕の生活まで左右するんだ。特にレコーディングの時は100%そうなるから、凄く疲れる
。いつも頭の中で彼らは生きていて、夜中に目を覚まして眠れなくなることもある。そしてレコーディ
ングの終わりと共に、彼らの生活は終わって消えてしまうのさ。とても大切なものを失くした気持ちに
なって、辛いよ。だけど、ライブで唄う時、彼らは生き返るんだ。
-ライブの時の貴方は、感情移入が激しくて、ドラマに通じるエネルギーを感じさせますが...。
S:昔ほどではないけど、僕はいつも歌の中の世界に生まれ変わるんだよ。歌詞の中のキャラクター
や魂や、又は風景と一体になるんだ。だけど、あまり激しくなりすぎると、オーディエンスの多くは理
解できなくて、人によっては恐怖を感じたりするみたいだ。僕はそれが唯一のパフォーマンスのあり
方だと思っているけど...。だから客の態度が気に食わない時は途中で止めてしまうし、逆に客の方
が耐えられなくて、ステージが終わる頃には誰も残っていなかったり...なんてこともある。
-確かにライヴ自体少ないし、ロンドンでは特にプレイしませんね。もっと多くの人に見てもらい
たいと思いませんか?
S:そうだね。最近はステージの方も重要に思い始めたところなんだ。ただギグの時は本当に完全に
消耗し切ってしまうから、少なくともツアーなんてやるのは不可能なんだよ。
‐個人的には、どんな音楽を聴いているんですか?
S:偉大なるニック・ケイブ。あとはケイト・ブッシュとかデッド・キャン・ダンスとか、昔のスコット・ウォー
カーなんかも好きだよ。逆に最近のバンドは殆ど知らないけど、シュガーキューブスは気に入ってい
る。クラシックは創作する時、想像力をかきたてるし、仕事の邪魔をしないから、よく聴く。
他にはマイルス・デイビスとかブルース・ジャズが好きなんだ。何でも聴くけど、ダンス・ミュージックは
だめ。何たって僕は踊りがとっても下手だから(笑)
その時、馬の群れが前方を横切っていった。そしてSimonは、まるで別の時間の中にいるかのように、記憶の中の物語をつぶやいた。
S:君達は馬は好き? 昔、僕は馬を持っていて、よく乗り回していた。今でもそうするべきなのかもね
。車は便利だけど、閉鎖的で好きになれないんだ。特に田舎だと、金属の箱に入って時速50マイル
で往復していたら、全く人に触れることがないよ。昔ならストリートにはもっと人が歩いていて、すれ
違う度に挨拶を交わしていたんじゃないかな。僕の育った所はとても小さな村で、4軒ある農家のうち
の1つが僕の家だった。家の周りには蘭の花が咲き乱れていて、向かいにはポプラがあった。そこは
昔、森だった広い不毛地帯なんだ。僕が子供の頃、木々が病んで葉は黄色く変色した。皮が剥がれ
落ちて、半分以上が死んでしまい、そして切り倒さなければならなくなった。そこに何もなくなった
時、僕には木霊が見えたよ。村に伝わる話によると、ペストが村を襲った時に、人々は全滅し、廃墟
と化した。「Virus Meadow」はこのことを唄っている。
あの歌の元の話があるよ。昔、僕達の町に教会があって、不思議な7つの銀の鐘があった。中世の
頃、それは崩壊して、その時ジプシーや異教徒が、その純銀の鐘を盗み出し、どこかの堀に隠したと
言う。そうすれば、いつかその銀を売れるでしょ。だけど結局、彼らのうちの誰も、2度とそこには戻ら
なかった。だから今も、その鐘はそのままどこかに眠っているんだよ。
思い出も沢山ある......。ある草原に、よく魚をつりに行った池があった。木が切り倒されて何もなくなっ
た時、その夏の暑さで池の水が干上がってしまった。2インチくらい泥水が残ってるだけだった。
僕達はバケツを持って、全部の魚を別の池に移しに行った。子供心に、良い仕事をしたと思ったよ。
もう少しで死んでしまうところだったからね......。
霊を見たことがある‐。そういう時って、驚いたり、興奮すると思っていたけど、実際は何の感情も持
たなかったよ。心が洗われたみたいだった。僕が見たのは、ぼんやりした形をしたもので、飛び回っ
ていた。丘を登って、森が見えはじめる所に、白い光が浮遊していたり......不思議な所だよ。
‐あなたは、これから何処に向かうと思いますか?
S:僕らはゴシックではないからね。ゴースト・オブ・ゴシック......。いつか、都会に出てみよう。そうすれ
ば、音楽も変わるかな.....。
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