<Translated Lyrics- Farewell To The Shade- Jpn. Edition>

邦題:「フェアウェル・トゥ・ザ・シェイド」(TEICHIKU RECORDS Co. Ltd TECP-25185)

(敬称略)

# プリンス・ルパート Prince Rupert

寝室のルパートは今や虜
冷たい石の露台(バルコニー)に芽吹く雑草
ゆらめく穂などを
床に就きつつじっと見るのみ
白絹の空に今日もまた
血染めの曙が昇るのかと
しかし この葡萄色した朝朗けも
たちまち暮れて帳がおりるのはルパートの知る処
来るその日のかたわらで.....
「おお、今日の糧を与えたまえ」
ルパート王子はこいねがう
「今日の糧を与えたまえ」

四面楚歌のルパートは今や虜
冷たい床の柔肌にまどろみ
いりこむ陽光は 胸をよぎる
記憶の稲妻の如く 彼に刺さる
百合紋散らばる寝室の間を
黄金と白へと照らす陽は目前に昇り
紅玉(ルビー)の指輪をきらめかすが
なえた手指より すり抜けて......
床の上へと転げゆく
「おお、今日の糧を与えたまえ」
ルパート王子はこいねがう
「今日の糧を与えたまえ」

寝台のルパートの上には
夜の女王が頭をもたげ
星たちも今宵の夢を紡ぐころ
濡羽色した乱れ髪を払いほどこうと
「今日の糧を与えたまえ」
ルパート王子はこいねがう

# マクベスズ・ヘッド MacBeth's Head

「綺麗だけどびっくりしたなあ
目を覚ましたら一面雪景色だなんて」
開いた窓から吹き込んだ雪は
砂丘のように足許に吹き寄せて
部屋中うっすら銀世界
家財までが覆いつくされ
あわれに砕けて崩れ去る

すべて消え去り嬉々とした彼
雪の下に潜んでいるとも知らずに

マクベスの赤土色した腕が彼の首に巻きついて

「思い出せ......忘れるな 何処にいると思っている
......私から離れられるとでも」
赤土色の腕には泥の河のように
臭気漂う町中へうねり出て
海の岸辺へたどりつく

マクベスの頭
クローバーが咲き乱れ 時を忘れた町は
雪の静けさにも気づかない
マクベスの頭
吠えまくる犬ども
貧衣の下民 彼らの外套
壁で角をからませ合う牡鹿の首.....
下郎どもの外套はうねりながら
眠たげな銀色の丘になびく

マクベスの頭
歪んだ運命の警笛を吹く
けぶる荒野を越えて
「戻ってこい」とは彼もついに言えず
マクベスの頭
波止場を裸足で歩く
浅黒い女達のエメラルド色の瞳に映る
経を読むような北風が
ハリエニシダの草原を撫でる
マクベスの頭が降りる
幸福な眼下の町は
清らかな雪にみじんも気づかず
紫に腫れた舌は口中でもつれ
酔いつぶれて町衆に罵声を浴びせ
怒号は落ちぶれた町に響き渡り

太鼓橋をくぐり抜ける....
マクベスの腕はきつく彼の首に食い込んで
「忘れるな、忘れるな」と
マクベスの頭
石の匂いがたちこめて

マクベスの頭は
朱子織の空からこぼれ落ち
閉じていた目をかっと開く......
マクベスの腕はきつく彼の首に食い込んで
......忘れるな
忘れるな

「それにしても綺麗だが、びっくりした
雪の中で目が覚めるとは」

# ノーバディ・イン(インストゥルメンタル) The Nobody Inn

# ビリーフ・イン・ザ・ローズ Belief In The Rose

薔薇の花は頭を垂れて
垣根より木陰に頷く
ひんやりとした柱廊をぬう
つぶやくような静寂の中
そのかぐわしい薫りが目にしみて
夢と真のもつれが解ける
ついには届かぬところの
夢は鮮やかな毒に満ち
死は死で
歓びは歓びのあまりに甘い園

砕かれた衣ももう思い出せない
その虚ろな頬ずりも......
貴方の棘で身を切られたいのに
その蒼白な躰を

花びらは落ちても
なおも棘は身につけたまま
季節が流れゆくごとに
鮮血色の花をつけるのを待ちわびて
時代と英知が
たとえあなたの時代を拒もうと
僕は薔薇を信じよう
貴方の愉しみも痛みも夢も
死は死で
歓びは歓びのあまりに甘い園

# ストリート・オルガン The Street Organ

ストリート・オルガンの奏でる
浮かれた調べは街のあちこちに流れ
落葉の黄味に色づく路地をうねり

淋しい並木道をそぞろ巡るころ
そこには緑青の記念碑どもが
空を睨んで 待ちかまえ.....
虚ろな耳を掠めてゆくのみ
弧をかき踊る円舞曲(ワルツ)の友は 遠い冬ざれ
雪の使者......
現(うつつ)を照らす 黄金色

調べは子守唄をひとりごち
嬰児を胎内へと呼び戻す
愉しいもの憂い 調べの環に今と昔を見失い
老女の瞳に現れ出るのは
娘、恋人、息子達
恐怖、母、季節、時の間
別離と邂逅、愛の終わり、春、そして何もない
うた歌う彼女は温もりに夢から醒めた鳥のよう
気づけば冬は 彼方に過ぎて

ストリート・オルガンの音は
はじめは此処 最後は彼処(あそこ)

そして何処にも流れない

大聖堂の静寂 混迷の海
心を這いずる記憶の潮の満ち引きよ......
あの人の頬に垂れかかる ひと房の髪が
.....目覚めて名前を叫んでも
返事をするのはオルガンだけ

ストリート・オルガンはあの道この道流れてゆく
現(うつつ)を照らす 黄金色

# レディ・ダーバンヴィル Lady D'Arbanville

マイ レディ・ダーバンヴィル
ぐっすりお休みになって どうしたのですか
明日になったら 起こしてさしあげますから
そうしたら もう離さない
ええ 僕のものになるんです

マイ レディ・ダーバンヴィル
僕はとても辛くて悲しくて
あなたの胸が止まってしまったようで
息も細くなるのは何故ですか
息も細くなるのは何故ですか

マイ レディ・ダーバンヴィル
ぐっすりお休みになって どうしたのですか
明日になったら 起こしてさしあげますから
そうしたら もう離さない
ええ 僕のものになるんです

マイ レディ・ダーバンヴィル
今夜はひどく冷たいのですね
唇に触れても冬のよう
肌はもはや雪のよう
肌はもはや雪のよう

お慕いしておりました
たとえ土へと葬られても
あなたの傍を離れません
朽ち果てぬこの薔薇のために
朽ち果てぬこの薔薇のために

お慕いしておりました
たとえ土へと葬られても
あなたの傍を離れません
朽ち果てぬこの薔薇のために
朽ち果てぬこの薔薇のために

# ミスフォーチュンズ Misfortunes

この無情な曙に
冷ややかな月の瞳を追い求め
日時計にじっと目をやり
とどまる影を見守るだけの
そんな僕を追いつめないで
日時計を見つめていると
貞淑な面をした不幸の叫びが聞こえてくる
移ろう影の渦巻く中に

*(コーラス)
有明の空から
またたく銀の星が涙を落とす
陽は昇り
夜は用心深い瞳を閉ざすから
僕を追いつめないで
追いつめないで

危機をはらんだ荒地の中に
彼方日々を追い求め
日時計にじっと目をやり
動かぬ影を見守るだけの
そんな僕を追いつめないで

不幸の叫びが聞こえてくる
警鐘に耳も傾けずにいるよう
日時計を見つめている間は
不吉な予感も放たれるから

*有明の空から
またたく銀の星が涙を落とす
陽は昇り
夜は用心深い瞳を閉ざすから
僕を追いつめないで
追いつめないで

# ペア・トゥリー The Pear Tree

脱ぎ捨てたガウンを梨の木に掛けて
風にそよぐのを眺める彼女
ひなげしや野菊の上で
雲の流れる青空に
羽ばたく翼のようだった
彼女の胸は.......
玉の汗が浮かんでいたから

真昼の太陽は
木もれ陽となって彼女に降りそそぐ
解かれた抱擁のように
色褪せて
枝はきしむ

梨の木に掛けたガウンは
ふたつの腕をはためかせ
彼女の息が鎮まれば秋も訪れる
残炎の空は
歌うひばりに誘われて
彼女が夏を口ずさむ頃には
もう 過ぎ去っていた

黄昏の落日は
木もれ陽となって彼女に降りそそぐ
解かれた抱擁のように
夏過ぎて
枝はきしむ

梨の木に掛けたガウンは
彼女の頭上に踊る
堕天使のように
翼をだらりと揺るがすうちに
胸もやがては鎮まって

# イル・オーメン Ill Omen

6月の森に出かければ
池は穏かで
空き地に出くわし蒼い幹の虚ろに会うもの......
森(そこ)は悲しみに暮れてもうずたずた
じゃあ立ち止まらずにざくざく歩いていこう
そうしたら「おいで...おいで」なんて
けだるい庭の扉が手招きしているよう
」おいで...おいで
これは愛、行かないで」
理想の妻がそこにいて
林檎の吐息と
乳色の服の薫りが漂ってくるみたい
「おいで....おいで」なんて
「愛しているの、行かないで」

恍惚の僕が真珠色の部屋を通り過ぎる頃
揺らめく屋根の許で.....彼は明日を待ちわびる
唇が言葉を刻む「いってごらん
これは愛、行かないで」
かわりに僕は泣き叫ぶ―おいで.....おいで
僕の鋼鉄(てつ)の馬、僕の機関車、幻の友達
おいで...おいで 鋼鉄(てつ)の馬 轟音たてて
火室の蛇輪ががたんと援み
燃える胸へと僕を呑み込む
漆黒の躰の中へと.....
「おいで...おいで」と声あげて
もう止まらない 轟音たてて

# ホース・フェア The Horse Fair

どこへ...どこへ
闇夜に射抜かれた矢のように君の処へ
どこへ...どこへ
あの娘は髪にリボンをつけているよ
どこへ...どこへ
馬市へ
春風を抜けて
あの娘のリボンをすり抜けて
心通わぬ素晴らしい生活のため
どこへ...どこへ
絵本みたいな景色と
荒れた海
どこへ...どこへ
どこにも行かない
馬市と
彼女のリボンへと
どこからでもない
行き場のない人なんかには程遠い
幸せ一杯の真っ暗闇を抜けて
どこへ...どこへ
ギィ...ギィ その音は
硬く低い弦楽器
どこへ...どこへ
馬市へ
そう 僕は
闇夜に放たれた黒い矢

# ハープ(インストゥルメンタル) The Harp

# アンカー・ヤード Anchor Yard

錨の庭の門に佇む彼女
肩のショールを引き寄せながら
布を巻きつけた手指は忘れない.....
壁に掛かった鉄の釣り針
藍色の煉瓦の上に散らばる魚の臓(わた)
秋を呼ぶ雨が
夜のように彼女の肩へと降りそぼる...
昔歌った奇妙な唄が苔むす壁に今も響く
うずく灼熱の陽のもとに

鯖漁(さば)の日々が蘇(よみがえ)る
波に向かって歌いだす.....
あの頃は刃物握った働き手
今じゃすたれて塩と砂

私達は錨の庭に流れる唄


Attention:ほぼ原文のまま掲載しております。(若干の漢字かな変換を除く)

                                                 (訳詞:秋山幸子)



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