<Newswave vol.22 Oct.-Nov. 1989>

アンド・オルソー・ザ・トゥリーズ・インタビュー
僕たちはミュージック・シーンの中の辺境だよ


インタビュー・文:山下えりか


9月某日、かすかに色づきはじめた樹々を車窓に見ながら、インディー界の仙人And Also The
Treesの棲息地ウスターシャーへと短い旅をした。AATTは、約1年半ぶりにアルバム「
Farewell To The Shade」をリリースしたばかり。サイモンとジャスティンのジョーンズ兄弟が駅
まで迎えに出て、彼らの気に入りの散歩道マルヴァーン・ヒルを案内してくれる。インタビュー
は丘の中腹の小さな茶店の外の木陰のベンチで行われた。



-新譜では以前に比べて、かなり外にアピールするような音も出てきたと思うのですが。
Simon Huw Jones(以下、S):うん、前よりは軽くなっていると思うよ。『Virus Meadow』は自分達の住
んでいる土地にテーマを絞った。激しくてかなり土臭い作品だった。でもあのLPで、僕らの名前も知
られるようになって、ヨーロッパへの道も拓けたんだ。国外に出た事自体、あの時が初めてだったし、
きちんと準備の整ったギグをやって反応も良かったんで、すごく自信がついたんだ。それで随分僕ら
変わったと思うんだよね。で、戻って『Millpond Years』を作る段になった時は、それまでの張り詰めた
、土着的なものから、もっと広い視野でものが書けるようになってた。その後、『Millpond Years』でヨ
ーロッパ・ツアーをやった時も同じでね。僕ら精神も肉体もいつもこの村に戻ってスタートはするけど、
回を重ねる毎にツアーで得た視点や経験を持ち帰って、その度に少しずつ地面から高いところへ浮
かび上がっているというか。勿論、AATTの音楽はいつもここ、故郷から発しているものであることは
間違いないんだけれどね。でも今作を聴いて僕も、前より激しくないし、閉鎖的じゃないし、明るい感
じがするよ。


-実際に、より多くの人にアピールしようという配慮はあったわけですね。
S:それはいつもあるね。

Justin Jones(以下、J):そう、どうしたら、聴き易い音になっているか、っていう。


S:どういう訳か、結果的にはあまり差は出て来ないみたいだけど。初めから、そういう曲を書くって訳
じゃないからね。

J:ただ、元々の曲の形を変えてみるのはいいと思うんだ。例えば今度のLPの中の「Misfortunes」、こ
れなんか僕がギターで曲を作った時は、ものすごく暗いし、メランコリックな曲だったんだ。でもそれが
仕上げる過程で、全く違う聴き易い音になっていった。そういうふうに、本来の深いソウルも失わずに
、ポップな曲を作り上げていくのっていいと思う。

ジャスティンは熱烈な映画音楽のファンだ。彼の作る曲は、変拍子の多用が目立ち、AATT
の音楽性のユニークな魅力の1つを成しているが、これも彼のこうした音楽的背景と関わりが
深い。
今最も崇拝する作曲家はマイケル・ナイマン。10月公開のピーター・グリーナウェイの
新作映画のサントラが待ち遠しいという。
かと言って、2人とも全くポップ・ミュージックに耳を閉ざしている訳ではない。


-現在のチャートについて何か一言。
S:えーと.......お前、コメントある(笑)?

J:つまんないものが多くなって。なんて今更誰も驚かないか。でも中には絵に描いたようなポップ・ア
イドルを見事にやってのけてる人達もいて感心するよ。ペット・ショップ・ボーイズなんか、まさにその
道の達人て感じだな。

S:音楽的に、ものすごくいいポップ・ミュージックだよね、彼らのは。

J:うん、完璧。すごいよ。他の連中よりずっといいよね。

S:悪いポップほど、たちの悪いものはないからなあ。

-今、ここにミュージック・シーンの地図があったとしたら、あなた方はどのへんに位置するでし
ょうか。

S:辺境、だね(笑)。遠方からさしてくる光さ。だけど不思議なのは、僕ら、もう結構そうやって輝きを放
ち続けていて、しかもその輝きが少しずつ強くなってきている、って事なんだ。実際、本当に自然に、
ゆっくり成長して来ていると思うし、存在も認められてきたと思うよ。これが例えば、5年前に、ミュージ
シャンとしての富と名声を追求しにロンドンに出ていったら、全然違っていただろう。決して『Farewell
To The Shade』のようなレコードは作れなかったと思うんだ。

J:その地図の話を借りて言うとね、ふと思うことがあるんだ。例えば僕らが地図の端っこにいると言っ
てしまうと、まるでポップ・ミュージックという偉大な帝国に僕らが恐れをなして、ひれ伏してるみたいじ
ゃない?でも実際には、そんなに偉大な帝国なんかじゃない訳だし。ま、向こうに金が集まるのは確
かだけど。でも僕に言わせれば、その地図には2つの全く違う世界が両側に描いてあるべきなんだ。
僕らのやっていることは多くのポップとは何の関係もないものだから。

S:そこがまた、僕らの抱えている問題でもあるんだよ。ていうのもこの国のメディアじゃ僕ら、ポップ
にもインディーのどちらにも属せないような所があって。決してインディー界で流行を生み出していくヒ
ップ・ホップなバンドというんでも、ポップ・バンドでもないわけだからね。僕らとしても何か1つのチャン
ネルに合わせられれば、便利だろうなとは思うんだけれど、それが果たして何なのか、わからない。

イギリスよりはヨーロッパ諸国での人気が圧倒的に高いAATTだが、それは専ら「売れる売れ
ない以前にイギリスじゃ何もやってない」事が原因だというのが、彼らの自己分析だ。

S:国内での人々のAATTの記憶と言えば、『Virus meadow』以前で、ほぼ止まっている。で、当時の
僕らときたら、激しいばかりで、耳を塞ぎたくなるようなものをやっていた。耐え難いと思った人がいて
も責められないね。

今回もやはり、反応のいいヨーロッパでのツアーが優先のようで、その後、年末にロンドンで
のギグが予定されている。


−ところで、ずっと兄弟でバンドをやっていると、いい点も悪い点もあるでしょう?
J:うーん、そうだね、ちょっと関係が近すぎるかな。いやそんなことはないな、うまくコミュニケーション
が取れなくて、僕が離れた時期もあったし。いつ頃かなあ? もう思い出せないくらい昔だけど。何しろ
、16の時からAATTに出たり入ったりしてきたから......ちなみにうちはね、一番上にもう一人兄貴がい
るんだよ。彫刻をやってて、イタリアとイギリスを行ったり来たりしている。

‐こうやって見ていても、何となくわかるけれど、自分達でも結構性格の違いなんてのは感じ
る?

J:そうだね。特に大人になると、兄弟でも違いがはっきりしてくるよね。サイモンは文字の人だし、僕
は目や耳でものを捉える方だから、そこからして随分違いが出てくると思うな。

S:兄弟でやってて1ついいのは、エゴの張り合いがないってことだよ。他のバンドでよく見かけるのは
、メンバー間で互いに才能をひけらかすのに必死になっていたりさ......でもここまで人生長いこと一緒
だと、もうあんまり珍しいこともないし......うーん。何か急に失語症になっちゃった。ま、エゴのぶつかり
合いがない、とだけ言っとこうかな。

J:他にいいことなんか、何1つありませんよだ。

‐3人で笑い声をたてると、木立ちが一斉に揺れるようだ。新学期を迎えたばかりの小学生の
集団。犬を2、3匹連れて散歩に来る人。思い出したように、呼び合う羊たちの声。初秋の柔ら
かな風と光の中に立ち現れる物音といえば、そのぐらいのものである。

‐こんなに平和で静かな風景と、あなた方の音楽に表れる暗い精神性とは、一寸結びつきにく
いのだけれど。

S:人間が分裂しているんだ。いや、誰にでも暗い面はあるだろ?でも、インタビューでわざわざそこを
確認して回るなんてゾッとしないな、そんなもん見せびらかすなんて......(笑)。歌の中から感じ取れる
ものがあるとしたら、それはその通りなんだろうけど。

-これはウスターじゃなく、ヨークシャーの話ですけど、あんなのどかな田舎にイギリス中で一
番精神病院が多いんだと聞いて、私はびっくりしたんです。別にロンドンやリーズから病人を
集めて回ってる訳じゃないですよ(笑)。思うんですけど、田舎には都会とはまた別の、人の精
神を暗い淵に誘い込むような魔力があるんでしょうか?
S:うん、それは確かに思うな。


J:例えば、こうして辺りを見回してもひどく時代を感じない?ただ、のどか、っていうだけじゃなくて、異
常なほど静かで、古くて、もう随分長い間、ここでは何も起こってないんだ。そのこと自体、結構暗い
ものがあるよ。考えようによっちゃ。

S:あとね、静かで人気のない場所にいると、精神の境界線のような所へふと行ってしまうんだよ。こ
の丘のてっぺんに上がって、向こうのヘレフォードシャーの方なんか見てると、時々変な気分になる
もんねえ。いや、それともただ、幾つかの村の間でだけ、婚姻を繰り返してきた先祖がいけないのか
な?(笑)。

あまり夕方にならないうちにと、私達は丘のてっぺんまで上がってみた。実際にヘレフォードと
ウスターを両手に見下ろす眺めは、全身の力がフッと抜けるようなものだった。世界が止まっ
ている、というのはこういうのを言うのだろうか。


S:もともと僕らが何故音楽に走ったかって言えばさ、自分達の住んでる村の草原に漂うあまりの静
寂の中に、何か不気味な力があるような気がして−それである時期、自分は本当に頭がおかしくな
ってしまうんじゃないかと思ったんだ。地面の下に何かすさまじい力が潜んでいて、痛々しいまでに美
しいものをすくい上げようとしているみたいで、それをどうしても表現せずにはいられなかったんだよ
ね。僕は霊ってやっぱり生き続けてるんだと思うよ。時々、そういう意識と無意識の境目に出ていっ
て、これまで生きてきたあらゆる人やものの霊が全ているんだというところに自分を置いてみて、そ
のうちの1つを見つけて......そうすると、ほんの一瞬でも、誰かの記憶が再体験できるんだ。そういう
ことに興味があるんだけど、でもこの話って暗くない?

J:うーん、どこからか死臭が.......

‐じゃ明るいイメージを与えて下さいよ。何か密かな趣味とかないの?
S:ああ、僕、庭いじりが好きだ。

J:切手収集とか?(爆笑)あーあ、密かな趣味だって。

S:いい質問だったよ、本当。何か思わず目が覚めちゃった。




Biography

Discography

Lyrics

Disc Review

Link


Back To Article page

Back To Top

E-list BBS Search Ranking MusicStar-Piano Go to Top
inserted by FC2 system