<Doll No.42 Oct. 1987>

流行に左右されない真実の音楽を創り続ける稀有のグループ、その活動と歴史。


サイモン・ヒュー・ジョーンズ(Vo.)、ジョー・ジャスティン・ジョーンズ(G)、ニック・ハーバス(Dr)、
スティーブ・バローズ(B)から成るウスターシャー出身の4人組、アンド・オルソー・ザ・トゥリー
ズ。自らの渇望する心理世界をひたすら忠実にそしてまざまざと描き上げてきた彼らの音世界
は、一連のシーンとかけ離れた空間で常に普遍の美しさとリアリティをもって存在している。
'83年末に7インチ・シングル「Shantell」をもってレコード・デビューし、これまでに「And Also
The Trees」「Virus Meadow」という2枚の秀作アルバムと4枚のシングルをリリースしている彼
らであるが、その作品はどれをとっても煌くような感性と繊細なエモーションに満ち溢れ、空虚
な現実の中で、果てしない人間の浪漫を呼び起こしてくれるのである。そんな、彼らの重要な
サウンド面を支える、ギタリスト、ジョー・ジョーンズとのインタビュー。



結成は'79年ときいていますが。
「そう、8年前だね。兄のサイモンを除いては、みんな16歳ぐらいだった。そのころは、ニックの兄弟が
ベースをやっていて、'82年からスティーヴに変わったんだ。」

ファースト・シングルは'83年の終わりにリリースされましたが、結成してから、レコードを出すま
でに随分時間がかかりましたね。

「4年ほどね。でもその前にカセットLPを出したことがあるんだ。「From Under The Hill」というタイトル
で......。自主制作だったし、もう入手不可能だけど、700本はディストリビュートしたよ。'81年に前のベ
ーシストと一緒にレコーディングしたものなんだけど、収録した6曲は、全てのちにファーストLPの中に
リメイクして発売しているんだ。同じ曲とはいえ、オリジナルは、ずっとスローで、デモみたいな感じだ
ったから、LPの方が断然いいけどね。それから、かなり、ライヴもやったりして、やっとレコード契約を
交わしたわけなんだ。」

最初のギグはいつだったか覚えていますか。
「'80年の1月12日。小さな町でプレイしたんだ。それから、キュアのサポートをやったりしていたけど、
みんなすぐ僕たちの事をキュアと結びつけたがるから嫌なんだ。」

はじめ、ローレンス・トルハーストがプロデュースを担当していたということもあるからでしょう
ね。

「みんな、僕たちがキュアの音楽に影響を受けているようなことを言うけれど、キュアのメンバーは、
以前、あるインタビューで「むしろ、僕たちの方もAATTから影響を受けているはずだ。」って答えてい
るんだよ。彼らのアルバム『ポルノグラフィー』に入っている「ストレンジ・デイ」という曲を聴いてみて
も、僕たちの「So This Is Silence」という曲にドラム・ビートがそっくりだけど、「So This Is Silence」はそ
れ以前に書かれたものなんだ。僕たちは、実際、'80年当時から知り合いだったし、多分、お互いに
少しずつ影響を分かち合っていたんだと思う。
でも今は違う。それも、ほんの最初のころについて言えることなんだ。もう、キュアのことを聞かれる
のはうんざりだよ。」

あなた方は、今も、出身地であるウスターシャーをベースに活動を続けているようですが、そ
の土地柄や環境は、音楽に何らかの影響を与えていると思いますか。

「それは、あると思う。ウスターシャーは、とても静かで、典型的なイングランドの田舎町といった感じ
なんだ。もし、ロンドンにでもいたら、「Virus Meadow」は、きっと生まれなかっただろうね。そのレコー
ディングのほとんどは、大きな古い農家の一室で行われたんだけど、石の床に、つぼやブリキ缶など
がそこらじゅうにおいてある食料室みたいなところで、普通のモダンでハイテクなスタジオなんかとは
違う、とてもいい雰囲気のところだったんだ。今までで最高の場所だった。ロンドンではプレイすること
はあっても、住んでみたことがないからわからないけど、僕たちの曲は、すべて地元で書かれたもの
であるし、もしも他の大都市で生活したら、僕たちは、一体どんな音楽を作り出すんだろうなって思う
ことが、しばしばあるんだ。きっと、回りで起こっていることに対する、バイオレントなアクションになる
と思う。だって、ウスターシャーは、都会とは違って何もないんだもの。ただ、木があって、自然があっ
て、全てはゆっくりと進んでいるんだ。」


あなた方の音楽は、相反する2つの要素、つまりハードでエモーショナルな側面と、デリケイト
でリリカルな側面を、同時に持ち合わせているように思うのですが。

「そうなんだ。とても重要なことだと思うよ。2つの両極端な要素を一緒に用いながら、それは白と黒
であって、決してグレーにはならないっていうことはね。常に、1つから1つへと動きながら、それは、
ある交錯したスペクトルを描き出しているんだ。」

サイモンのヴォーカルと歌詩もとても独特な雰囲気を持っていますが。
「彼は、基本的に、シンガーではなく詩人なんだ。彼のヴォーカルは、歌っているというより、自分の
詩を感情のままに読み上げているって感じなんだよ。だから、語り口調のものが非常に多いし、時と
して、それに節をつける必要性もないんだ。ギターもベースも、それぞれのチューンを持っているし、
彼の表現しようとするヴォイスに合わせようとするのは難しい。だから、バランスのいいポップ・ソング
を書くこともできないし、そんなことにも興味もないんだ。強いていえば、セカンド・シングルの「Secret
Sea」が、多少わかりやすいかもしれない。」

あれは、他の作品とはかなり違う感じでしたね。

「もっとシングル的にデザインされたものだったからね。ドラム・マシーンやキーボードも使ってエレクト
ロニックなアレンジを施したり......。でも、あれはあれとして面白い作品だったと思うんだ。僕たちは、
常に違うことをやっていきたいと思っているし、もう1つの「Virus Meadow」みたいな作品をつくりたくは
ないんだ。」

「Virus Meadow」は素晴らしいアルバムだと思いますが。
「うん、僕も大好きだよ。でも、あれは1つの作品として完了したもので、また同じようなものを作りた
いとは思わないんだ。それを、僕たちのサウンドのように決めつけられたくもないしね。僕は、「Virus
Meadow」を1つの本のように留めておきたいと思っている。
全ての歌詩と音楽は表紙と裏表紙のあるスリーヴの中に閉じられていて、今は、ショーケースの上に
静かに置かれているようなね。」

ファースト・アルバムから「Virus Meadow」へと向かう過程の中で、自分自身ではどのような
進歩を遂げたと思いますか。

「たぶん、実際に楽器で演奏されている以上の表現性が広がってきているんじゃないかと思う。
楽器の弾き方1つをとってみても、決して型にはまらずオープンだし、聴き手は、自分の鼓動と音楽と
の間の空間に身をおくことができるんじゃないかと思うんだ。」

3作目のシングル「A Room Lives In Lucy」から「Virus Meadow」の発売までに、約1年半とい
う長い時間を費やしていたようですが。
「そうなんだ。不幸にも、僕たちが納得いくような作品を創り出すには、とても時間がかかるんだ。サ
イモンは、一行の詩を書くのに、何度も書きなおしたりするうちに、2ケ月も費やしてしまうしね(笑)。」

「A Room Lives In Lucy」を出す前に、一度、解散しそうになったというのは事実ですか。
「本当だよ。あまり長い間、同じメンバーとやっていると、衝突が起こることもあるでしょう。ちょうどそう
いう時期だったんだ。でも、昨年にしたって、ヨーロッパにプレイしに行かなかったら、もうやめていた
かも知れなかったんだ。「Virus Meadow」も存在していなかったよ。というのも、もうイギリスの音楽産
業のあり方にはうんざりしていてね。多くの人々は、憂うつな日々の中に生活していて、本当は音楽
そのものには興味があるわけではないんだ。ただ、今、何かが流行っていて、何を聴くべきかという
表面的な部分だけを意識している。ほとんど終末的だよ。それじゃ、本当に音楽を聴いているとは言
えないからね。人々は、装飾品の1つでもあるかのように、レコードを買っているみたいだ。」

最新作のシングル「The Critical Distance」では、また、今までとは趣きを異にした新たな表現
世界が展開されているようですが。

「あれは、ローマで録音されたもので、僕たちがローマとフローレンスに行った際にうけた不思議な
感覚をそのまま音にしたものなんだ。とても狂気的な精神状態を音化している。それにシングルとし
ては、「コマーシャル・スーサイド」といえるほど、商業的な意図が全く皆無な作品だったと思う。」

今後のリリース予定は何かありますか。
「今年の終わりまでには、LPを出すつもりでいたんだけれど、もし、何もいいものが書けなかったら、
何もリリースはしないよ。自分たちが満足いかないものを無理に出しても、一生後悔するだけだから
ね。そしてもしも、何もクリエイトすることができなくなったとしたら、そのときは、AATTであることをや
めるまでだよ。僕たちは常に、少なくともイコールかそれ以上のものを創りたいと思っているし、それ
でなければやっている意味がない。それが僕たちのチャレンジなんだよ。」


(インタビュー・文:永沼佐知子)



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